つめあと

5年前の夏、僕らは長岡に向けてひたすらＭＴＢで走っていた。
朝湯沢を発ってからずっと、暗くいやらしい雨が降り続きだった。

小千谷を過ぎるあたりからようやく雨が弱まってきて、信濃川沿いの県道589号を走る頃には
完全に止んだ。もうすでに夕刻だ。

県道589号は、川沿いの急斜面に沿うように伸びている。
道は長い上り坂で、僕らは濡れた体であえぎあえぎペダルをこいだ。

道がやっと頂点に達したとき、前面の視界が開け、信濃川の広い川域が目に入った。
雨上がりの後、美しい紫色に包まれたその夕景に、僕らは瞬間声を失った。

そして慌てて気づいて、僕は懐からビニールに包んだ小さなデジカメを取り出し、夢中でシャッターを押した。

そして今、あの夏の思い出の場所に来て、僕は再び声を失った。
やはりそうだっだのだ。

新潟中越沖地震で信濃川沿いの県道が崩れ落ち、たまたまそこを通りかかった車が飲み込まれた。
そしてその車に乗っていた親子が、悲しくも生き埋めとなってしまった。

その場所は、まさに僕らがあの夏に走り、美しい光景に足を止めて見とれた場所だった。
その道は無残に崩れ落ち、今だにその姿をさらしていた。
あの時の光景と今の姿のあまりの違いに呆然としてしまった。

ここで亡くなられた親子のご冥福を祈りたい。

Comments

[投稿情報: 麦酒]

ケロさん、こんにちは。

湯沢→長岡→新潟まで走りましたね。
（ケロさんは神奈川から）
信濃川の洛陽、よく覚えています。

地震の映像を見て、ここはもしかしてあの走った場所では？と
直感で分かりました。
なぜなんだろう。

あれから、もう５年。
山古志も復興しているみたいです。

もう一度行ってみるかな。

[投稿情報: kerokerobouzu]

麦酒さん、こんばんは。
3人で走ったあの旅は、とても印象的で心に残っております。

因みに山古志も寄りました。
確かに復興してましたが、崩れ落ちた橋などがまだ残されていたり、
あの地震の恐さが伝わってきました。

でも山古志って、小千谷から本当に近い場所にあるにも関わらず、
あの地震の時は孤立してしまったんですよね。

是非麦酒さんも新潟方面行ってみてください。